株式売買トレーナー カブトレ!の基本データ
株式売買トレーナー カブトレ! のレビューを書くつもりで電源を入れて、最初の1時間で私が買えた株は1銘柄だった。コナミ、100株。このソフトを出した会社である。2006年暮れのDSソフト、株の売買を練習するシミュレーション。中古を1本手に入れた。

| タイトル | 株式売買トレーナー カブトレ! |
| 機種 | ニンテンドーDS |
| 発売日 | 2006年12月14日 |
| メーカー | コナミデジタルエンタテインメント |
| 開発 | 小島プロダクション |
| ジャンル | 株式売買シミュレーション |
| 当時価格 | 4179円 |
中身は東証1部と東証マザーズ、その全銘柄の過去5年分の値動きで、株式ニュースも会社四季報も入っている。遊ぶ側はカフェ「カブト」に出入りする大学生になり、人生ゲームのようなマップを進みながら資産を増やしていく。開発にはマネックス証券が協力した。名前を眺めているぶんには、ずいぶん硬派なソフトに見える。
基本はわかっている、と私は答えた
始めると私は大学生になっていた。十数年ぶりに再会した幼馴染ののぞみから、妙な誘いが来る。今日の占いで駅前のカフェが吉と出ているのだそうだ。十数年ぶりに会った相手を占いで呼び出す幼馴染。怪しすぎる。
連れて行かれた先が、ネットで株を売り買いする人たちの集まるカフェ「カブト」だった。株は企業がビジネスをするためにお金を集める手段です。練習だけなら資金は要りません。カウンター越しの説明を、のぞみも隣で神妙に聞いている。誘っておいて、この人も初めてらしい。そのうえで聞かれた。レクチャーを受けますか。
いいえ、を押した。
2006年の私は株のことを何も知らなかった。証券会社の名前も、単元という言葉も、当時の私には等しく遠い場所の話である。株式売買という言葉から浮かぶ絵は一つきりで、それは市場で大きな損を食らって全部を失い、退場していく人の背中である。買うでも売るでもなく、消えていく人から想像が始まっていた。それが20年経って、いまは私も株を持っている。板を見て一喜一憂する生活ではない。個別の銘柄を選んだこともない。要するに投資信託だけだ。
それでも20年ぶんの知識はある。2006年の大学生に一から教わる筋合いはない。根拠は特にない。
1050円という値札
ストーリーモードに入ると、いきなり手数料の設定を選べと言われた。取引ごとに払うか、1日定額にするか。券売機の前で財布を出しそこねた人間のように、私はここで完全に止まった。

100万円までの取引で最低1050円。200万円なら2100円。1日に何度売買しても2625円で済む定額プランもある。すべて税込で、その消費税は5%だ。
いま国内株の手数料って、ネット証券だと無料じゃなかったか。声に出ていた。
この画面はゲームの古さではなく私の立っている場所のほうが動いたことを教えてくる。1回売買するたびに千円札が1枚出ていき、往復すれば2枚、迷って買い直せば3枚が消える。それを当たり前の前提としてこのソフトの練習は組み立てられている。しかも手数料は毎月選び直せる仕様だ。細かい。名前のとおり、細かいところが本気なのである。
そして正直に書いておくと、私はこの表の中身をよく理解できていなかった。株のレクチャーを断った直後である。

任天堂、23,000円
マップの作りはほとんど人生ゲームだ。スロットを回して進み、止まったマスでイベントが起きる。分岐までにどれだけ資産を増やせたかで、近道に入れるか遠回りの迂回ルートへ落とされるかが決まる。ライバルたちの所持金は200万、300万、800万。学生の小遣いの話ではなかった。
株の画面に入る。会社を五十音順で並べられると分かった瞬間、私のやることは決まり、指はもう任天堂を探していた。
23,000円。
1000株いこう、と言いかけて指が止まった。桁が違う。100株でも230万である。手元の資金では届かない。そして少なくとも私が触った範囲では、単元未満株、いわゆるミニ株にあたる仕組みが見当たらなかった。1単元に満たない資金しか持っていない者にとってその会社は最初から選択肢の外にいる。株を学ぶソフトなのに、学び始めの人間ほど買える会社が少ない。
おそらく、私が断ったレクチャーで最初に説明されるのがこれだ。
一覧を上から下まで往復し、値段と桁を見比べ、迷った末に買ったのが、最初からデフォルトで表示されていたコナミ株100株だ。このソフトを出した会社である。往復した意味がない。
画面が約定しましたと表示する。ぐうの音も出ない。

同じ野球選手のサインが、4回売れた
すごろく側で進んでいると、だんだん既視感が濃くなってきた。大ファンだった野球選手がメジャーで大ブレイクし、日本時代にもらったサインにプレミアが付き、それが5万円で売れる。しつこい新聞の勧誘を断り切れずに契約して3万円。応募した懸賞が当たって1万円。悪くないイベントだ。悪くないのだが、同じものが4回出た。1回目は笑い、2回目は苦笑し、3回目でこれは私の運の問題ではないと気づく。
極めつけは、隣を走るライバルだった。まったく同じ野球選手のサインを、ほぼ同じタイミングで売っている。全員が同じボールを持っていた。この街の野球選手は1人しかいないらしい。
ところが株の画面のほうは、掘れば掘るだけ出てくる。配当利回りで並べ替える。指標から絞り込む。タッチペンでチャートの形をなぞると、それと似た値動きをした銘柄を探してくれる機能まで積んである。検索は遅い。とても遅い。回り続ける画面を眺めながら、これは出来が悪いのではなく、2006年のDSに全銘柄の5年分と四季報を押し込んだ代償なのだと思うことにした。
すごろくは薄く、株の画面は厚い。バランスは崩れている。崩れた方向がタイトルどおりなのが、いっそ潔い。
12,700円のボード
カフェで口座にログインすると、日経平均12,700円、TOPIX1286という数字が出た。低いと口が動く。動いてから、これは低いのではなく当時なのだと思い直した。2026年の相場を横目に見ている人間の目盛りで、20年前のボードを読もうとしていた。
銘柄リストには実名の会社がずらりと並ぶ。サンリオ、中国電力、東燃ゼネラル石油、加藤製作所。20年のあいだに名前が変わった会社も、どこかと一緒になった会社も、いまは別の形で残っている会社もあるはずだ。そして各社に付くアナリスト視点のコメントが、当時の四季報そのものだった。コナミの欄にはゲームソフトにカードゲームに健康にパチンコと多角化を進め、遊戯王カードの米国販売とゲームソフトの年末投入で収益の上乗せに期待、と書いてある。株を練習しに来たはずが、私はしばらく他社の紹介文ばかり読んでいた。2006年末の日本経済が、丸ごと1本のロムに漬け込まれている。
ここで思い出してほしいのだが、私はこれを中古で買っている。2006年にこれを新品で買い、この画面で株の勉強を始めた誰かがいたわけだ。その2年後に何が起きたかを、私たちは知っている。あの暴落でこの人がひどい目に遭っていないことを、いまさら、20年遅れで祈っている。耐えた側に回って資産を増やした人もいるだろう。どちらだったのかは、カセットに書いていない。
もう一つ、起動して初めて知ったことがある。このソフトを作ったのが小島プロダクションだったことだ。あの名前はもう無いはずだと思いながら調べてみると、コナミの中では2015年に組織として消えていて、いま同じ響きで動いているコジマプロダクションは別の会社だった。20年前のロムには、その名前がまだ普通に載っている。株の話をしに来て、いちばん驚いたのがここだった。
総評
タイトルどおりのトレーニングは、ちゃんとできる。銘柄を探し、指標を見て、注文を出すまでの手つきは本物だ。ただし手数料も税率も単元の扱いも、いまとは前提が違う。これから投資を始めたい人が最初に触る教材としては、正直きびしい。
推奨アクション: 勉強のためではなく、2006年末の株価ボードを見に行くつもりで起動してほしい。まずDSか3DSが手元で動くかを確かめる。動いたら五十音順の一覧から、当時よく聞いた会社を1社だけ探してみる。四季報のコメントを1本読んだところで、これが練習ソフトではなく記録だったと分かるはずだ。株のゲームをもう1本という気分なら、カプコンの『株トレーダー瞬』という別方向のソフトもある。
レクチャーは断った。そのあと手数料の2択で固まり、任天堂で桁を間違え、買えたのはコナミ100株。20年ぶんの知識で武装して臨んだ男の、初日の全成績である。基本はわかっている。次は、はいを押す。
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